私は元地方銀行の行員で、
金融商品を販売する仕事をしていました。
そのことを少し振り返って、
金融商品の販売店としての責任について私の考えをお話ししたいと思います。
きっかけは、
先日Twitterでフォローしている方が紹介していたニュース。
外貨建ての保険販売について、
リスク説明を十分にしていなくて苦情に発展、
金融庁が動くよ、というものでした。
少し前ですが、こんな記事も。
金融商品を売っていた者としては
どうにも気になるニュースです。
銀行から離れた今だからこそ考えることを
お話しします。
金融機関の責任を問うことは賛成
このニュースを紹介されていたきしやん(@oyagakoniosieyo)は
「全部金融機関の責任なのか」と問題提起をされていました。
文句言うのはいいけど、『買う』判断した自分の責任は? https://t.co/4VtceukYfB
— きしやん@コツコツ熊本 (@oyagakoniosieyo) August 7, 2019
たしかに、それは言えます。
私もこのニュースを見て、
「元本割れのリスク説明が不十分」というところには
かなり疑問符がつきました。
特に銀行=預金というイメージが強いので、
預金以外の金融商品だったとしても
銀行で預け入れる=元本保証という思い込みで
商品説明を聞かれる方もいらっしゃることから
「元本割れリスク」については必ず、何度も説明しているはずです。
虚偽、もしくは説明不十分で契約すれば
いずれ自分の首を絞めることにつながりかねないので
やる人はまずいません(たまにいるけど)。
ただ、「すべてのリスク、デメリットをしっかり理解して説明しているか」
というと、話は別です。
それが解消されるなら、金融庁の介入は歓迎できるものだと私は思っていますし、
販売側の責任をより追及してもいいのでは、と思います。
売る側なのに「すべてのリスクやデメリットをしっかり理解していない」ことは
とても恥ずべき事ですが、
事実だったんですよね。残念ながら。
なぜなら売るときは
売るための商品勉強しかしないから。
その商品のデメリットなんて勉強しないんです。
そして私も例外ではありません。
懺悔の意味も込めて、
私が働いていた時の実態をお話ししたいと思います。
銀行窓販の裏側、こんな感じ
飽くまで私が勤めていた銀行の話ですので
他行ではどうかわかりません。
元同僚に聞いてもあまり当時と変わらないようなことは言っていましたが
それでも今は違っているかもしれません。
行員にはそれぞれ手数料目標がある
所謂ノルマが、行員にはあります。
かんぽ生命のニュースもあったので、
これはほぼ周知の事実と言っていいかもしれないですね。
目標は人それぞれ違っていて、
新人は少なく、役職者は多く、といった差はありましたが
接客する立場の人間には必ず割り振られました。
どう割り振りされるかは支店ごとに違いましたが、
まずは支店に目標が来るので、それを支店長や役席者が相談するか、
もしくは各自と面談しながらすり合わせして決めていくか
どちらかだったと思います。
大きく上半期・下半期に区切られ、
更に細かいゴールをクオーター(Q)と称して3ヶ月を一期間として目標がありました。
6,9,12,3月がその期末にあたります。
それまでに達成できてなかった時の支店の空気…
今思い出しても胃が痛くなるくらいの重い雰囲気でした。
毎朝朝礼で目標額、達成率、達成まであとどのくらい、
と読み上げられるとともに
その乖離にどうアプローチするか考えろと支店長からお達しがあり
業後にはミーティングをやり、リストアップをし、営業電話をかける。
期末が迫る度に支店長の声は暗く重くなり
時に罵声を浴びせかけられることも。
達成しないことは許されない。
何が何でも達成する。
たとえ身内を巻き込んでも。
そんな考えが普通でした。
これは金融機関に限らず
程度の差はあれ営業職あるあるなんだと思いますけどね。
このノルマを達成するために
当然セールストークは磨きますよね。
魅力を感じてもらえるように説明するわけですから
リスクだけではなく得られるリターンももちろんセットで説明します。
その時にお客様の頭に
リターンのみが強く印象に残ることはあり得る話だと思います。
それがクレームに発展したと考えられます。
売る商品には流行がある
今回ニュースに取り上げられたのは外貨建て保険でした。
そのほかにも銀行の窓口販売(窓販)では様々な商品を扱ってますが
私が現役の時も外貨建て、円建て問わず
保険商品はかなり売れてました。
理由は3つ。
②利率が明示されているのでヒットしやすく、説明しやすい
③たまにインセンティブやキャンペーンが展開される
それぞれ詳しくお話しします。
①獲得手数料が多い
まず先述のノルマが、
獲得手数料いくら稼げ、というものがほとんどなんですね。
この金融商品(保険や投信)を売ったら申し込みしてくれた金額の何%かを
販売会社でもらえるよ、というのが商品ごとに決められてます。
この仕組みは保険も投信も同じなのですが
投信は最低申し込みが1万円とかなのでロットが低くなってしまうのと
販売手数料が低いものが多いので(1%とか)、
売ってもあまり稼げません。
売れたら同じくらいの事務や手間が発生するので
効率のいい方で稼ぎたい、と思うと
設定されている手数料が高い方を売りたいと思う人も出てくる。
そしてそれを本部や役職者も推奨しだす。
保険は手数料が投信より圧倒的に高いです。
そして申し込みロットも100万円~とか150万円~とか
比較的大きいので、効率もいい。
ということで販売側としては保険を売りたくなります。
②利率が明示されているのでヒットしやすく、説明しやすい
お客様は当然ながら、金融商品を求めて窓口には来ません。
だいたい、定期預金の書き換えや預け入れで来店されます。
運用ニーズがないところに売らないといけないわけです。
すると、まずはニーズ喚起から始めないといけません。
そこで使えるのが、今の時代だと「低金利」ですね。
「今預け入れしてもこれくらいしか金利が付きません。
でも確定利率でこれくらいつくものもあるんですよ」
と、外貨建ての保険利率を持ち出す。
私が勤めていたころの利率で3%~4%くらいだったと思います。
対して定期預金の金利は0.1%とかの世界(今はもっと低いですね)。
少しでも増やしたいと思えばここで興味を持ってくださる人は多いです。
そこで設計書と呼ばれる、詳細にシミュレーションができる説明資料を出して
増え方やリスクなんかを説明するわけですが
外貨、とか為替リスク、元本割れ、という話を聞いて
敬遠される場合ももちろんあります。
だけど為替リスクをとっても「確定利率」というのはかなり強い。
説明しやすいし、ヒットしやすいので、売りやすい。
③たまにインセンティブやキャンペーンが展開される
今もあるのかわかりませんが、
たまに手数料上乗せのキャンペーンが展開されることがありました。
保険会社のほうで販売促進のためにやるんですが
販売側としてはより効率よく手数料が稼げるので
その期間はその商品を全力で販売しに行きます。
リーマンショック前の保険会社はかなり羽振りがよくて
外資系の保険会社なんかは
販売成績がいい行員を何人か
アメリカの本社に視察という名目で招待したりもしてました。
何件販売したら〇〇がもらえる、みたいなのも一時期やってたり。
ちなみに今紹介したその会社、
どちらも今はありません…。
つまり販売至上で顧客至上ではない
ここまでお読みになってお気づきかもしれませんが
すべて完全に、販売側の都合です。
販売側が売りやすいから、説明しやすいから、
手数料が多いから、
という理由で注力する商品は時期によって変わります。
銀行側は手数料を得られればいいので、
販売が伸びればそれを本部で後押しします。
勉強会を積極的に開いたり、
事例共有をしたり、
キャンペーンを展開したり。
保険会社の担当さんは他行も回っているので
他行で成功した事例なんかも共有してくれたりします。
そうやって伸ばしたのが外貨建て保険で、
おそらくそれが理由で今回のニュースにつながったんでしょうね。
本当にいい商品だと思って売っている
それでも現場の行員たちは
騙そうと思って売ってるわけではありません。
この商品を提案することで
お客様の資産を増やして
そして喜んでもらいたいと思っています。
色んな人と話しましたけど、
こう思ってない人はいませんでした。
自分のノルマを達成する、という目的だけでは
なかなか売れないんですよね。
(中にはものっすごく口がうまい人もいますけどね)
やっぱり根底には「利益を出してもらいたい」という想いがあるわけで。
だからデメリットがあると知っていても、
それを上回るメリットがあって、
それがお客様の役に立つと思って信じて売ってます。
それでもいい商品とは限らない
ただ、それが盲目的になっていただけだったと
今ならわかります。
お客様の役に立っていると思って
販売を正当化したかった。
商品の情報は、
保険会社の担当か、
本部の研修担当、
どちらかから聞くことになります。
当然「売ってほしい」という人から聞きますし
自分たちも「売りたい」ので、
メリットばかりに焦点が当たりますし、
それを一生懸命吸収します。
私もそうでした。
でも外に出てみたら
マイナスの情報がたくさんあります。
たとえばこんなのとか
こんなのとか
ウェブメディア以外も探せばたくさん出てきますが、
だいたい共通しているのは「手数料が高い」です。
売ってる側の時はその手数料で食べてたようなもんなので
当然と言えば当然なんですけど
売ってた時は「増える」メリットにしか注目してなかったので
手数料が高いことがこんなにデメリットとして運用成果に響くとは思ってませんでした。
本当に恥ずかしい話ですけど…。
当時デメリットとして認識していたのは
・為替リスクがあり変動によって元本割れの可能性があること。
・保険会社の倒産リスク。
これだけだったんです。
販売側に、売るときに必要な知識以外を求めるかと言うと
必須ではないような気もしますが
「売るため」だけの商品知識ではなく
「信頼されるため」の金融知識が必要な時代になっているんじゃないかなと
個人的には思うのです。
そのためにも金融庁には頑張ってほしい!
たしか炎上した例の2000万円問題の発端になった報告書にも、
最終的にはより適切で顧客視点にたった
金融サービスを提供するようにというガイドラインも含まれていたはずです。
そして利用する私たち顧客側にも、
ある程度突っ込んで質問できるだけの金融商品への関心と知識があれば無敵ですね。
難しいけどねー!
ニュースからこんなことを考えました、という話でした。
では、長くなってしまったのでこのへんで。
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