渇望。
辞書を引いてみるとそれは、「のどが渇いたとき水を欲するように、心から望むこと」だそうだ。
そうだ、今の私はまさにこれだ。
渇望している。
心の底から望んでいる。
ある能力が欲しくてたまらない……
そのことについて話す前にまず、
こちらを見てもらいたい。
話はそれからだ。
あるブロガーさんが書いた記事だ。
ダイエット中にYouTubeを見ながらトレーニングしたっていう、
言ってみればただそれだけの話。
なのに、
他のブログとは一線を画すものとなっている。
たとえばこんな一文にそれは現れる。
学級委員の女子高生(設定)と汗だくになりながら、キャッキャウフフとトレーニング・・・夢のようなシチュエーションじゃないですか・・・?
(本文より引用)
…トレーニングしながら妄想で女子高生召喚してる…!
へんた…と言いたくなるところだが、今はぐっとこらえて次を見てみよう。
秋の味覚、栗。
ほくほくとした食感。
ほんのりと優しい甘さ。
黄色い瞳でこっちを見つめてくる君はかわいい田舎娘。
鉄壁のイガイガに守られていないで、その褐色の肌をぼくに見せておくれ。
おいおい、冒頭からぶっこんでるじゃないか…!
栗を擬人化してる…!?
肌見せてくれってさ…それ、栗だよ‥?
これだって一言でいえば、栗むきしながら夜更かししたってだけの話なんだ。
ただ、それだけの、話。
なのになんなんだこれ。
へんた…いや、まだ言わないでおこう。
最後にこれを見てほしい。
いつも真面目ぶって、そのメガネの内側から冷ややかな視線を俺らに向けていた委員長。
いけ好かないおもしろくない奴だと思ってた。
けど、あの日。
アイツのメガネを外した、あの日。
今まで見たことない表情でこちらを見つめたアイツの切ない表情を、体温を、俺は一生忘れることができないだろう。
これまた冒頭から飛ばしやがる。
わたしは何を読まされているんだろう。
シュークリームの食レポ記事じゃないのか。
なのになんで委員長が出てくるんだ…
っていうかさっきからこの人、委員長とか学級委員とかそんなんばっか。
好みがダダ漏れてる。
もう言おう。言ってしまおう。
この人、変態だ。
でも、圧倒的に面白い。
わたしは、日常を面白く書ける人を誰よりも尊敬している。
彼はそれを、いとも簡単に(なのかどうかはわからないが)、何記事にもわたって、
やってのけているんだ。
しかも、「面白いでしょ?ね?こういうの書いたら面白いんでしょ?」みたいな、押し付ける感じがない。
むしろ読者を置き去りにすらしようとしている。
ナチュラルに、変態だから書ける文章だ。
何を隠そう、わたしが渇望しているのは、この能力だ。
念のため言っておくが、
「この能力」とは、もちろん「変態」にかかっているわけではない。
「日常を面白く書ける能力」だ。
無論、頭のいい読者さまならお分かりだと思うが。
何気ない日常を、こんなに面白く書きやがって。
こんな記事たちを連日、連続して読まされたせいで、私の面白さの基準が、
完全にそこにロックされてしまったのだ。
そうすると、完成した自分の文章が、なんとも退屈なものに思えてくるのだ。
面白さメーターが上がり切ったまま、読むことになるからだ。
抑揚のない、のっぺりとした文章のように見えてしまう。
そこで私のキーボードを打つ手が止まってしまった。
書いても面白くない。
こんなことは初めてだ。
今までどんなものを読んでも起きなかった現象だ。
自慢じゃないが、わたしはこれまで、きっと普通の人よりも多くのブログを読んできた。
企画をやったときは、2週間で100以上も読んだものだ。
面白い記事を書く人は、たくさんいた。
それをうらやましく思うことは日常茶飯事だが、それでも、自分で書くものも好きだった。
だから人の文章と比較することはなかった。
自分は自分の味を出せばいい話だ、それを面白く思ってくれる人も、きっとどこかにいるはず。
そう信じて、今までやってきた。
でも、こんな気持ちになったのは初めてだった。
私もこんな面白い文章を書きたい……
再びPCに向かえるようになるまで、1週間、かかった。
書きたい気持ちに従って書くことは楽しいが、完成したものを読んでみるとやはり面白みはない。
面白さメーターは振り切れたままだし、自分の文章がそれを超えることはない。
今はどちらかというと数をこなして、書きたい欲求を埋めているに近い。
次は、次の記事こそは、満足のいくものが書けるかもしれない。
そんな期待を込めて書く。
すぐに裏切られる結果になったとしても。
だから今も書きまくっている。
それでも渇望は止まない。
好きなことを好きに書けばいい、で埋まることのない欲求があることを
本当なら認めたくなかった。
けれども、残念ながら、今抱いている、素直な気持ちがこれだ。
面白いものを、書きたい。
それが書ける変態のこの人が、うらやましい。
追伸
念のためもう一度断っておくが、変態に憧れているわけではない。
それだけは強く主張しておく。
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